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弁護士を目指している方へ

ここ数年、弁護士を目指す方の人数が減っているようです。法科大学院(ロースクール)を受験する方の人数も減っているようです。

しかも、国から給与の支給を受けて司法修習を修了させても、弁護士にはなれても、就職先が容易に見つからない。
このような状態を知らされたら、この道を目指そうという方が減ってしまうのも無理はありません。
ただ、就職を容易にするために資格を取っておこうとか一生の記念に受験しておこうという程度の安易な気持ちで臨むにはこの試験は難しすぎるといえるでしょう。

私がここで言いたいことは、時代が変わっても司法試験というのは難しい試験であることに変わりはない。だから、この試験に挑戦しようと思ったらそれなりの覚悟で臨まなければならない。弁護士という資格、職業にはそれなりの魅力があるということです。このコーナーでは、これからそのあたりのお話を続けていきたいと思っています。

まず弁護士という職業にはどのような魅力があるのか、逆につらいところがあるのかという点について、私の独断と偏見とによってお話しすることにいたしましょう。まずはこの職業の魅力はどういったあたりにあるのでしょうか。
1.とにかく自由であること、これが何といっても最大の魅力でしょう。イソ弁生活を何年かで脱却したのちに、独立した場合の話です。イソ弁時代は、給料をもらって、仕事のやり方を教えてもらうわけですから、これは自由がほとんどないからといって文句は言えません。
では、具体的には、どのあたりが自由なのでしょうか。
①まず、監督者がいない自由です。仕事との関係で、あなたの行う仕事に対して、見張っていたり、注意したり、やり方について怒ったりする人がおりません。
これが圧倒的な自由なのです。サラリーマンの世界に入った場合には、定年退職するまで、上司、取引先、株主など、あなたを監視しながら、絶えず怒ったり注意したりする存在があります。この点についてちょっと想像してみてください。
特に、この人生は1回だけの人生だと意識したとき、この自由のすばらしさは感動的だと思いませんか。
②生き方を選べる自由があります。弁護士には、いろいろの業態で頑張っている弁護士がいます。
貧しい人の味方。無罪を主張する刑事事件の弁護人。M&Aや渉外関係を中心とする企業法務に特化した生き方。離婚、交通事故、労働事件、債務整理などを専門に行う弁護士。
私のように、多数の顧問会社と契約していただいて、その相談業務などを中心に活動する弁護士など、一口に弁護士といっても、その活動領域は多岐にわたっています。内科、外科、産婦人科などと分化されているお医者さんの世界ほどではないにしても、とにかく弁護士の世界では、自分が活動していく分野を自由に選択していくことができるのです。
③経営上の自由もあります。自分の判断だけで、銀行などからお金を借りたり、返したり、報酬を増やしたり、貯蓄したり、自由にお金を使ったり、とにかく、経済的には全く自由です、但し、一歩間違えると、倒産の自由も待っているのですが。
④社会的正義を貫ける自由もあります。弁護士にとって最大の長所は、社会的正義の実現にあります。
人間として、これだけは許せないという問題に対して、弁護士としての資格を生かして、正面から立ち向かっていくことができます。生来、正義感が強いような人にとっては、何物にも代えがたいほどの自由だといえるでしょう。
⑤好きなだけ利益を上げてよいという自由もあります。
弁護士は、依頼者から支払っていただく報酬や、顧問会社から支払っていただく顧問料によって生計が支えられているという面が強いのですが、具体的には、依頼された案件を処理していく過程で、着手金、報酬金、手数料、顧問料、文書作成料、鑑定料などいろいろな名目による収入が発生してきます。
しかも、その単位が千円、百円という単位ではなく、何十万円、何百万円、場合によっては何千万円ということもあります。
ある程度流行りだしてくると、所得税という税金を意識しながら仕事を進めるようになります。職業柄、脱税などできませんし、最近ではある程度以上の逋脱額のある場合には、国税庁から懲戒請求されてしまう事例も発生していますので、否応なく所得税の内容には敏感になってくるのです。
⑥最後ですが、その他として、とにかくありとあらゆる自由があるのが弁護士業という業種だといえます。
とにかくお目付け役が一人もいないのです。ただ、若いうちからこの自由のすばらしさに気づいて、慎重に生きようとする人が大部分なのですが、時として、どこかの段階での判断を誤ってしまい、残念ながら誤った道に進んでいってしまう仲間を見送ることもあります。
あふれるほどの自由におぼれることなく、ご自分の才能をフルパワーで発揮できるのが弁護士業だということができます。
2.社会的尊敬を受けられることも弁護士業の大きな魅力の一つだといえるでしょう。司法改革の名のもとに弁護士の絶対数を激増させてしまったために20年ほど以前に比べると、弁護士に対する社会的評価は下がってきてしまいましたが、それでもまだ、医者、弁護士といわれる程度の評価は残っているものと思います。
特に最近では、政治家とか、マスコミに登場するコメンテーターとか、小説家とか、本来の弁護士の業態から、1歩も2歩も進んだ領域で頑張る弁護士が増えてきました。
そのことによって、弁護士という職業の社会的知名度が上がるとともに、そのステータスの高さが評価されるようになってきているということもいえるでしょう。
3.結果としての充実感を得られることも魅力の一つです。
簡単に言えば、努力の結果が報われて、かなりの成果を依頼者にもたらすことができて大いに喜んでいただいた上に、多額の報酬を支払っていただくことができるのですから、解決に向けて払った苦労など吹き飛んでしまいます。
このような体験を重ねてきた結果、もしもう一度人類として生まれ変わることができたら、やはり苦労して司法試験にチャレンジしてでも、もう一度弁護士になりたいと考えるひとが私の周りにもたくさんいるというのが実際です。
4.それなりの資産を手にできることも、魅力といえば魅力の一つでしょう。
努力をすればするほど、それが収入の増加に結びついてくるのですから、素晴らしい仕事だといえるでしょう。税務調査を気にしながら行える仕事だといえば、最もわかりやすいのではないでしょうか。
但し、弁護士に登録していきなりこのような地位に立てるわけではありません。そこに至るまでには人並外れた努力を重ねてきていることもまぎれのない事実なのです。
努力の過程を無視して、結果にだけ目を奪われてこの道を選ぼうとしているとすれば、それはとても危険な発想だと言わなければなりません。
5.知識を蓄積できることも弁護士業の大きな魅力の一つです。
どのような職業の場合でも、経験を積み重ねるにしたがって、ある程度の知識や技術が蓄えられていくでしょうが、弁護士業の場合には、1件の仕事ごとに、その体験の中で学んだ、法律、判例などの知識や解決に至るまでのノウハウなどが、自然のうちに蓄えられていきます。
そして、このようにして蓄えられた知識などがその弁護士にとっての宝となっていくのです。
その宝を持っている弁護士ほど頼りになるものはおりません困難な案件ほど、経験豊かな弁護士に依頼すべきだという教えはこのような意味からいわれているのです。
6.定年がなく、いつでも引退できることが、もしかすると弁護士業の最大のメリットかもしれません。
平成30年現在では、一般企業でも、公務員でも、60歳から65歳までのあたりの年齢が定年年齢とされています。そして外見上は、あんなに若々しい人なのにといわれる人が、定年退職によって強制的に第一線を退かされています。


要するに、仕事が途切れないほどの顧客が切れずにあること、健康が許していることという2点の条件さえそろっているならば、90歳でも現役を続けることが可能な職業であるということです。

いうれにしても、定年による強制退場という事態が全くない点が、弁護士業にとっては最大の魅力になっています。
弁護士業の魅力は、これ以上にもたくさんあるでしょう。ここでは代表的なものについてだけ触れてみました。それでは、どの職業もそうであるように、良い点ばかりのはずはないのであって、大変な面、つらい面、デメリットと呼べるような面もあるはずです。
次には、このようなマイナス的な面についてお話ししましょう。

1.自分以外に稼ぐ人がいないことが第一のデメリットでしょうか。
圧倒的な自由業であることの裏返しがこの現象ににつながるわけです。
病気やけがで活動が全くできなくなってしまった場合には、たちどころに収入が途絶えてしまいます。
それ以上に困ってしまうのは、お引き受けしている案件は大なり小なりの動きがあるのですが、自分で手を下すことができないと、その依頼者の方にご迷惑をかけてしまいます。
従って、自分一人で仕事をしている弁護士は、若いイソ弁を雇っていたり、いざというときに助け合うことのできる親しい弁護士を作っていたりするものです。
2.裁判でも示談行為でも、いつも結果が良いとは限らないこともデメリットの一つです。
弁護士の仕事のうちの大半は何らかの法的トラブルの解決ということです。トラブルですから、単数か複数かは別として、相手方が存在し、その相手方との間に何らかの争いが生じています。典型的なケースの場合には、裁判の当事者の一方の代理人として戦うことになります。裁判には、途中で和解をすることも少なくありませんが、そうでない場合には、勝つか負けるかのどちらかになります。裁判までには至っていないものの、示談行為をお引き受けする場合にも、相手方が存在しますので、うまく話がつく場合とつかない場合とがあります。

3.どうしてもある程度の営業活動が必要なことも不自由な点の一つでしょう。
弁護士という職業は、完全な自由業ですから、ただ待っていればどこかから仕事が提供されるというわけではありません。仕事を発注してくれそうな依頼者を自分自身で探し出す必要があります。
したがって、独立した直後の4,5年は依頼者の数が増えずに苦労することになります。私たちが弁護士になった40年以上前の時代には、全国の弁護士数が1万人ほどであったのですが、昨年には3万6000人ほどに膨れ上がっていますので、弁護士人口としては約3.6倍に増加してしまったということになります。そして、その大部分が都心部に集中していますので、かなりの営業努力をしないと仕事にありつけないということになります。

そして、開業後10年くらいすると、それまでの案件を通じて信頼感の出来上がった依頼者やその関係者などからの紹介案件が増えてきて、ようやく一息つけるようになってくるわけです。
4.意外と自由時間が少ないことも、弁護士業の不自由なことの一つです。
弁護士の主な仕事である裁判や示談行為には、とにかくたくさんの雑用が伴います。連絡文書を作成したり、郵送したり、時間の予約をしたり、登記の作業を指示したり、発生してくる税金の内容を研究したりなど、とにかく嫌になるほどの雑用が発生してきます。したがって、弁護士として成功していく要素の一つとしては、これらの雑用を、嫌がらず、手際よく進めていく能力が必要とされます。有能な秘書とか事務員を持つことが絶対的に必要な職業だと思います。


このようなわけで、大半の弁護士は、毎日、夜遅くまで、場合によっては休日もつぶして頑張らざるを得ないということになるのです
5.年功序列的な面が全くないことはデメリットであるとともに、見方によってはメリットの一つといってよいのかもしれません。

ただ、自分の若い頃も同じく年功序列など全く関係のない、下克上のような世界に暮らしてきましたので、長年弁護士をやっているものはみなこのことに慣れきっていますから、特に不自然なこともなく、四六時中初年兵という生活を無理なく送っているのです。
6.いくつになっても勉強を続けなければならないことも必ずしもデメリットとは言えないのかもしれません。
上に述べましたように、経験40年の弁護士も登録初年度の弁護士も全く平等の世界ですから、対等に理論闘争を戦っていくためには研究や勉強に対して不断の努力を続けていく必要があります。



ここまでは、弁護士という職業の良い点や大変な点について、私が40年以上の経験の中で感じたことをお話してきました。


1.先天性と努力性
これから弁護士になる道を選ぼうかどうか迷っている方に、まずお話しておきたいことは、この世界にも向き・不向きという面が絶対にあるということです。
それも、まず司法試験に合格できるかどうかという点における向き・不向きがあります。


まず、司法試験の合格との関係ですが、この試験は、誰もが認めるほどに難しい試験ですから、頭の悪い人には向いていません。運とか努力だけでは補えないほどの難易度だと思います。

では、天才か、頭が良いか、あるいは頭がよくないかをどこで見分けるのかと聞かれそうですが、これまでの私の人生の中で、この人は天才だ、この人は頭が良い、この人は良くないということは、それほどの苦労もなく見分けることができてきたと思っているのですが、では、あなたご自身が、この3つの分類のどれに属するのかという点については私にはまったくわかりません。これまでの人生の中であなたにお会いしたこともなければ会話を交わしたこともないからです。

とにかく、受験勉強に着手する前にご自分の頭脳程度を冷静に分析することから始めていただきたいと思うのです。

2.合格しやすい人、しにくい人
では、司法試験に合格しやすい人とはどのような人でしょう。あくまでも私なりの考え方ですが、最も重要なことは、頭脳構造が論理的にできていながら、しつこくない人です。逆に、情緒的過ぎて感情に走る人、一つのことにこだわりすぎる人は向いていないと思います。もっとも向いていないと思える人は、重箱の隅をつつくように、細かいことにこだわりすぎる人です。
次には、計画的で実行力のある人です。絶えず、1週間、1か月、1年というような単位で計画を立て、かつその計画を確実に実行できることが大切です。あるいは、各科目の基本書ごとに、ここからここまでをいつまでに読み込むなどという面からの計画を立てて、これを実行できる人が合格しやすいといえます。
次には記憶力がかなり良いひとです。司法試験は、記憶力だけではなく、論理的思考力、文章力などももちろん重要ですが、やはり一定レベル以上の記憶力が必要だと思います。特に短答式試験は、短時間内にあれだけの出題数をこなさなければならないわけですから、設問に対して瞬間的に反応できるだけの記憶力と、記憶の引き出しにいっぱいに詰まった知識力が必要だといえます。そのために年齢が高くなればなるほど合格しにくくなるのです。
最後に、忍耐強くかつ健康であることです。とにかく司法試験に合格できるラインまで到達するためには、膨大な量のテキスト等の読み込みが必要になります。長期戦を戦い抜くうえで最も重要なことは、肉体的、精神的な「飽き」に対してどのように取り組むかということで、皆それぞれに工夫をしているのですが、やはり性格的に根気のあること、単調な日々の繰り返しに対して耐えられるということが大切だと思います。
それとともに、試験の本番が近づいてくる中で、集中力を高め、緊張に打ち勝っていけるためには、何といっても頑強な体力が必要になります。

3.弁護士になって流行る人、流行らない人
弁護士の中でも流行っている弁護士と流行っていない弁護士がおり、その差はかなり大きいものがあります。

まず、何といっても第一の要素は、人格的に誠実であるということでしょう。弁護士は依頼者から仕事を依頼され、何らかのトラブルを解決していくわけですが、その業務遂行の過程で、依頼者が弁護士に最も期待していることは誠実に事務処理を進めてくれるということでしょう。
そして、弁護士にとっての、大部分の依頼者は、かつての依頼者が紹介してくれる依頼者です。依頼者の側から言えば、知人を紹介するに足りるだけの誠実さをその弁護士が持ち合わせているかどうかということなのです。
第2には、高度な解決力を持っていることです。具体的には、最も有効な解決策を探し出し、素早くこれを実行に移していく能力を持っているかどうかという点です。
この高い解決力を持っている弁護士は、必然的により良い結果を依頼者にもたらし、その結果高い報酬金を手に入れることができるだけでなく、また次の依頼者になる人を紹介してもらえることにつながっていきます。

第3には、細やかな気配りができることでしょう。依頼者のために、細やかな気配りを欠かさず、事件処理の過程においても、きちんと説明してくれ、解決の直前には、必ず依頼者の気持ちを確認してくれるような弁
護士ですと、また次に問題が起きたら、この先生に依頼しようかなと考えるものです。周囲に弁護士を探している知人がいた場合にも、この先生を紹介しようかなと考えるものです。電話でも、メールでも、とにかくこまめに連絡をくれる弁護士には人情としても親近感が増していくものです。
第4には、事務所、事務員、本人の身なりその他弁護士本人と周囲の全てに清潔感があり、親近感を感じさせるような環境が整っていることでしょうか。必ずしも高級な調度品がそろっていなくとも、きちんと整頓されていて、素早く仕事のできそうな環境であることが大切なように思われます。例えイケメンでなくとも、身なりが高級でなくとも、流行っている弁護士には、共通して清潔感と、周囲に漂うオーラがあります。

ご自分が司法試験に合格したのちに、弁護士として開業した際に、ここに書いたような流行る弁護士としての要素を身につけられそうかどうかを考えられたらよいと思います。
以上には、流行る弁護士、流行らない弁護士の特徴を記してきました。
これから弁護士という職業を終生の職業として選ぼうかどうか迷っているあなたにとっては、少し先走りのお話だったかもしれません。
でも、私としては、このあたりのことまでは視野に入れてご自分の1回限りの人生の選択に臨んでいただきたいのです。
弁護士という職業は、本当によい職業です。なってみて、まず悔いが残るなどということのない職業だと思います。

それでも、あなたはこの道を目指しますか。
目指そうとするあなたに対しては、最大のエールを送らせていただきます。
健康に留意され、悔いの残らないような全力プレーを見せてください。
Bon voyage!!