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働き方改革関連法の成立
去る平成30年6月29日に、安倍内閣の長年にわたる悲願であった、働き方改革関連法が成立しました。
この関連法は、「高度プロフェッショナル制度」、「残業時間の上限規制」、「勤務間インターバル制度」、「同一労働同一賃金制度」、「有給休暇消化義務」、「フレックスタイム制の修正」、「中小企業の残業代」など、労働分野において極めて重要な制度を多数含んでおり、今後の労働政策上大きな転換点を迎えたものと言われております。
この欄では、この中で最も重要と思われる「高度プロフェッショナル制度」を中心としてご説明したいと思います。
高度プロフェッショナル制度
自民党が、命懸けで取り組んできた「働き方改革関連法」の一つとして成立したこの制度は、法案の正式名称を「高度プロフェッショナル制度」といいます。別名として「ホワイトカラー・エグゼンプション」と呼ばれることもありますが、これは、アメリカの連邦法である公正労働基準法において制度化されている「ホワイトカラー・エグゼンプション」にちなんだ呼び名なのです。民主党や、野党関係の団体などは「残業代ゼロ制度」と呼んで、最後まで立法化に反対してきました。
この制度は、一定の要件を満たす、年収の高い事務系、管理系の仕事に従事する労働者について労働時間に関する規制の適用除外を認める制度であり、比較的高給の専門職・管理職にのみ認められるという制度です。
この制度の主な内容としては、
①賃金は、労働時間ではなく仕事の成果に応じて決められる。
②この制度の対象となる労働者は、法定労働時間や、労働時間に関する就業規則に拘束されず、出社、退社の時間が自由に決められる。
③残業を何時間やっても、また、夜間労働や休日労働に対しても、割増賃金は全く支払われない。
④対象者は厚生労働省令で「年収1075万円以上」の労働者と定められ、かつ、研究開発者や為替ディーラーなど高度な専門業務の従事者に限定されている。但し、将来的には、弁護士などの専門職や企画・調査部門などにいる労働者もその対象とされる可能性があります。
この制度のあらましはざっと以上のようなものなのですが、この年収制限をクリアする労働者は、我が国の現在の給与取得者の中では管理職も含めて、約2.9%に相当するに過ぎませんが、政府の方針としては、将来的には10%を超えるように目指していきたいとされています。
更にこの制度の適用条件としては、①個々の労働者の同意が必要とされ、更には、②労使による委員会での協議を経ての同意が必要とされます。そして、③本人が適用後に撤回することも可能とされました。
また、一方では、企業には「健康確保措置」が義務づけられました。
働き過ぎを防ぐため、年間104日、かつ4週間で4日以上は休ませなければなりません。また、法定労働時間である週40時間を上回った場合には、医師と面談させるなどの義務も盛り込まれました。
このように、この制度の最大の特色は、賃金の支払い基準と、労働時間の関係が完全に切り離されたところにあります。我が国の従来の賃金体系が、労働基準法の定めによって、労働時間と完全にリンクされたものになっており、法定労働時間を超えた部分については、ペナルティともいえる割増賃金支払いの対象になっていることからすれば、極めて画期的な制度といえます。
そのため、この「残業代ゼロ制度」に対しては、割増賃金をゼロとする点において、いずれ事務系の労働一般に拡充されるおそれがあるだろうと強く批判されています。しかし、上記のような1075万円という年収制限が付されるという点や、具体的な作業の計画・進め方がそれぞれの労働者に完全に委ねられるというこの制度の性格からすれば、一般の事務系労働者や営業職の労働者にまでその対象が拡充されるとは考えられず、この批判は当たっていないと考えられます。
また、労働時間が全く管理外におかれることから、労働者の健康被害が拡大するという面からも批判されています。しかし、労働者の健康被害という問題に限っていえば、その可能性はこの制度に限らず存在するものですし、この制度の対象となるような、極めて高度な能力・技術を有する労働者については、その時間管理まで本人に委ねたからといって健康被害につながるとは考えられず、むしろ、作業に一定の区切りがついた時点である程度まとまった年休を与えるとか、年に1,2回の割合によって人間ドックの受診を義務づけるなどの方法によって防止できるものと思われ、その意味においてこの批判も当らないものと思われます。
政府の説明によれば、この制度の狙いは柔軟な働き方を用意することによって、労働生産性を高めることにあるとされています。確かに、この制度が定着すれば、創造性に富み、高い付加価値を加えられるような能力を有するホワイトカラーを多数生み出すことによって、日本経済の大きな発展につながっていくことが期待されます。IT(情報技術),AI(人工知能)の急速な発展は、人間の持つ知的労働の重要性をますます高めています。まだまだその比率は低いとはいいながら、高度な知的創造物を生産することができる可能性を秘めた労働者に対し、高額な報酬と、労働時間の制約からの解放という特権を提供することによって、その創造性を一層発揮してもらうことができるようになれば、我が国経済全体にとって悪いことであろうはずがありません。
このような高度な技術を有するプロフェッショナルにとっては、割増賃金というような小さなかたちで報酬をもらうのではなく、良い成果を上げて基本給や賞与、更には昇進というかたちでの、より大きな報酬を手にしたいと考えることは当然であるといえるでしょう。
そのためには、時として深夜にまで及ぶ残業などを必要とする場面も生じるでしょうが、拘束下で行う残業と異なって、その身体に与える負荷もそれほど大きなものにならないとも考えられます。
このような労働者にとっては、それこそ時間の制約は余計な規制であるに違いありません。長時間労働をするかどうかについても、その進めている作業との関係で、本人の判断に委ねればよいのです。
この制度の弊害の一つと考えられている労働者の健康維持という問題については、出社・退社の時間設定が完全に当該労働者の自己判断にゆだねられる以上、長時間労働による健康被害についても、本人の健康管理というかたちで自由に任せ、むしろ、一定の作業の区切りごとに、ある程度長期の休暇を与える制度にしたほうが有効であるように思われます。
あるいは、支払われる高給の中には、定期的な健康診断を受ける費用も含まれているという指導を徹底することによって、健康診断を定期的に受けることを半ば義務づけるという方法も有効かもしれません。
我が国経済界における最大の問題点は、高度な発明や、優れた技術の持ち主に対する報酬の少なすぎにあると、青色発光ダイオードの発明でノーベル賞を受賞したある技術者も述べています。本当にそのとおりだと思います。平等主義の名のもとに、優れた技術や、卓越した発想をすることによって国としての発展に尽くしてくれた人に対しても、平々凡々と日々を暮らしている人々との間に、大きな差のないような待遇しか与えなかったら、今後努力しよう、良い発想に取り組もうという人がいなくなってしまいます。
現に、科学の分野においては、優れた頭脳が、我が国を捨てて欧米に移住してしまっているという現実が起きているのです。
最後に、この制度が成功するか否かの鍵は、この制度の対象になり得るほどに高度な専門技術を持った労働者がどれだけ増えていくか、使用者側が、この制度の長所をどれだけ尊重し、活かしていけるか。逆に割増賃金の支払いを免れるという方向での悪用や、過度の目標値を設定することによって、当該労働者の健康被害をもたらすことがないかというような、使用者側の運用の仕方にかかっているものと思われます。
残業時間の上限規制
これまでは青天井となっていた残業代の上限について、罰則の設定というかたちで、初めて法的な拘束力のある上限が設けられました。
今回の残業の上限は、原則として「月45時間、年360時間」と明記され、繁忙期などに臨時に超える必要がある場合でも、45時間を超えて働かせられるのは、年に6か月までとし、年間上限は720時間以内とされています。
また、休日を含めた場合には、「月100時間未満」とし、2~6か月間の平均なら「月80時間」となります。
そして、上限を超えて働かせた企業には、6か月以下の懲役か30万円以下の罰金が科せられます。
大企業は2019年4月から、中小企業は2020年の4月から適用されます。
また、人手の確保が厳しい建設業やドライバーなどについては適用が5年間猶予されます。
新技術・新商品の開発などの研究開発業務については、適用が除外とされました。
このように、上限時間そのものについては、まだ高止まりしている感がありますが、とりあえず、罰則付きで上限制限がされるようになったという点では大きな進歩といってよいだろうと思います。
勤務間インターバル制度
勤務間インターバル制度は、仕事を終えてから、次に働き始めるまでに、あらかじめ決めた時間を空けさせて。働き手の休息を確保させる制度です。
2019年4月から、この制度の導入が企業の努力義務となります。
この制度は欧州が発祥で、欧州連合(EU)は、1993年、最低でも終業と始業の間に連続11時間の休息をとるように加盟国の企業に義務づけました。
日本政府としては、EUのように具体的な時間では示さずに、労使の協議によって決定するという方法をとっています。いずれにしても、この制度については、今後の運用次第という感じです。
同一労働同一賃金制度
パートや契約社員、派遣社員といった非正規社員は、今現在、雇用者の約4割を占めています。こうした人たちの待遇改善を図るため、正社員との不合理な待遇差の是正を企業に促すのが同一労働同一賃金制度です。
大企業では2020年4月から、中小企業では2021年4月から適用されます。
正社員と非正社員は今でも、仕事の内容や責任の程度、転勤・異動の範囲などが同じならば待遇も同じにする必要があります。
今回の法改正では、待遇ごとの性質や目的などに照らして不合理かどうか判断すべきだと明確にされました。
具体的にどのような待遇差が違法かについては「ガイドライン」で定められることになっています。
通勤手当などの手当てや社員食堂の利用などの福利厚生などの面では待遇差が認められないことになりそうです。
いずれにしても、この制度についてもこれからというところです。
有給休暇消化義務
年10日以上の年休が与えられている働き手に対して、最低5日は消化させることを義務づけたのが、この有給休暇消化義務制度です。
働き手が5日未満しか消化していない場合には、日程を指定して消化させることが義務づけられ、達成できなければ、働き手1人あたり最大30万円の罰金が企業に課せられます。
2019年4月から企業に義務付けられます。
この制度はそれなりに効果を上げっれそうです。
フレックスタイム制の修正
働き手が始業と終業の時刻を自由に決められる「フレックスタイム制」では、残業などを計算する際の基準となる「清算期間」が最長1か月から3か月に延長されることになりました。
清算期間を長くすると、働き手が仕事をする時間を選ぶ自由度が高まる一方、企業が特定の時期に集中的に働かせても残業代を支払わずにする余地が広がります。
この制度修正は一歩前進というところでしょうか。
中小企業の残業代
週40時間を超える仕事に支払われる残業代は通常の賃金の25%増しですが、月60時間を超える部分については50%増しとすることが労働基準法で決められています。
中小企業に対してはこれまでこの制度の適用が猶予されていましたが、2023年4月からはこの猶予が撤回され、ほかの企業と同様に50%増しとされます。
今回の改正では、中小企業で長時間労働を強いられてきた働き手にとっては大いにメリットがあり、一歩前進というところです。
以上が今回の国会で成立となった「働き方改革関連法」のあらましです。
かなり重要な内容が含まれており、今後の実務の動向が注目されるところです。
この関連法は、「高度プロフェッショナル制度」、「残業時間の上限規制」、「勤務間インターバル制度」、「同一労働同一賃金制度」、「有給休暇消化義務」、「フレックスタイム制の修正」、「中小企業の残業代」など、労働分野において極めて重要な制度を多数含んでおり、今後の労働政策上大きな転換点を迎えたものと言われております。
この欄では、この中で最も重要と思われる「高度プロフェッショナル制度」を中心としてご説明したいと思います。
高度プロフェッショナル制度
自民党が、命懸けで取り組んできた「働き方改革関連法」の一つとして成立したこの制度は、法案の正式名称を「高度プロフェッショナル制度」といいます。別名として「ホワイトカラー・エグゼンプション」と呼ばれることもありますが、これは、アメリカの連邦法である公正労働基準法において制度化されている「ホワイトカラー・エグゼンプション」にちなんだ呼び名なのです。民主党や、野党関係の団体などは「残業代ゼロ制度」と呼んで、最後まで立法化に反対してきました。
この制度は、一定の要件を満たす、年収の高い事務系、管理系の仕事に従事する労働者について労働時間に関する規制の適用除外を認める制度であり、比較的高給の専門職・管理職にのみ認められるという制度です。
この制度の主な内容としては、
①賃金は、労働時間ではなく仕事の成果に応じて決められる。
②この制度の対象となる労働者は、法定労働時間や、労働時間に関する就業規則に拘束されず、出社、退社の時間が自由に決められる。
③残業を何時間やっても、また、夜間労働や休日労働に対しても、割増賃金は全く支払われない。
④対象者は厚生労働省令で「年収1075万円以上」の労働者と定められ、かつ、研究開発者や為替ディーラーなど高度な専門業務の従事者に限定されている。但し、将来的には、弁護士などの専門職や企画・調査部門などにいる労働者もその対象とされる可能性があります。
この制度のあらましはざっと以上のようなものなのですが、この年収制限をクリアする労働者は、我が国の現在の給与取得者の中では管理職も含めて、約2.9%に相当するに過ぎませんが、政府の方針としては、将来的には10%を超えるように目指していきたいとされています。
更にこの制度の適用条件としては、①個々の労働者の同意が必要とされ、更には、②労使による委員会での協議を経ての同意が必要とされます。そして、③本人が適用後に撤回することも可能とされました。
また、一方では、企業には「健康確保措置」が義務づけられました。
働き過ぎを防ぐため、年間104日、かつ4週間で4日以上は休ませなければなりません。また、法定労働時間である週40時間を上回った場合には、医師と面談させるなどの義務も盛り込まれました。
このように、この制度の最大の特色は、賃金の支払い基準と、労働時間の関係が完全に切り離されたところにあります。我が国の従来の賃金体系が、労働基準法の定めによって、労働時間と完全にリンクされたものになっており、法定労働時間を超えた部分については、ペナルティともいえる割増賃金支払いの対象になっていることからすれば、極めて画期的な制度といえます。
そのため、この「残業代ゼロ制度」に対しては、割増賃金をゼロとする点において、いずれ事務系の労働一般に拡充されるおそれがあるだろうと強く批判されています。しかし、上記のような1075万円という年収制限が付されるという点や、具体的な作業の計画・進め方がそれぞれの労働者に完全に委ねられるというこの制度の性格からすれば、一般の事務系労働者や営業職の労働者にまでその対象が拡充されるとは考えられず、この批判は当たっていないと考えられます。
また、労働時間が全く管理外におかれることから、労働者の健康被害が拡大するという面からも批判されています。しかし、労働者の健康被害という問題に限っていえば、その可能性はこの制度に限らず存在するものですし、この制度の対象となるような、極めて高度な能力・技術を有する労働者については、その時間管理まで本人に委ねたからといって健康被害につながるとは考えられず、むしろ、作業に一定の区切りがついた時点である程度まとまった年休を与えるとか、年に1,2回の割合によって人間ドックの受診を義務づけるなどの方法によって防止できるものと思われ、その意味においてこの批判も当らないものと思われます。
政府の説明によれば、この制度の狙いは柔軟な働き方を用意することによって、労働生産性を高めることにあるとされています。確かに、この制度が定着すれば、創造性に富み、高い付加価値を加えられるような能力を有するホワイトカラーを多数生み出すことによって、日本経済の大きな発展につながっていくことが期待されます。IT(情報技術),AI(人工知能)の急速な発展は、人間の持つ知的労働の重要性をますます高めています。まだまだその比率は低いとはいいながら、高度な知的創造物を生産することができる可能性を秘めた労働者に対し、高額な報酬と、労働時間の制約からの解放という特権を提供することによって、その創造性を一層発揮してもらうことができるようになれば、我が国経済全体にとって悪いことであろうはずがありません。
このような高度な技術を有するプロフェッショナルにとっては、割増賃金というような小さなかたちで報酬をもらうのではなく、良い成果を上げて基本給や賞与、更には昇進というかたちでの、より大きな報酬を手にしたいと考えることは当然であるといえるでしょう。
そのためには、時として深夜にまで及ぶ残業などを必要とする場面も生じるでしょうが、拘束下で行う残業と異なって、その身体に与える負荷もそれほど大きなものにならないとも考えられます。
このような労働者にとっては、それこそ時間の制約は余計な規制であるに違いありません。長時間労働をするかどうかについても、その進めている作業との関係で、本人の判断に委ねればよいのです。
この制度の弊害の一つと考えられている労働者の健康維持という問題については、出社・退社の時間設定が完全に当該労働者の自己判断にゆだねられる以上、長時間労働による健康被害についても、本人の健康管理というかたちで自由に任せ、むしろ、一定の作業の区切りごとに、ある程度長期の休暇を与える制度にしたほうが有効であるように思われます。
あるいは、支払われる高給の中には、定期的な健康診断を受ける費用も含まれているという指導を徹底することによって、健康診断を定期的に受けることを半ば義務づけるという方法も有効かもしれません。
我が国経済界における最大の問題点は、高度な発明や、優れた技術の持ち主に対する報酬の少なすぎにあると、青色発光ダイオードの発明でノーベル賞を受賞したある技術者も述べています。本当にそのとおりだと思います。平等主義の名のもとに、優れた技術や、卓越した発想をすることによって国としての発展に尽くしてくれた人に対しても、平々凡々と日々を暮らしている人々との間に、大きな差のないような待遇しか与えなかったら、今後努力しよう、良い発想に取り組もうという人がいなくなってしまいます。
現に、科学の分野においては、優れた頭脳が、我が国を捨てて欧米に移住してしまっているという現実が起きているのです。
最後に、この制度が成功するか否かの鍵は、この制度の対象になり得るほどに高度な専門技術を持った労働者がどれだけ増えていくか、使用者側が、この制度の長所をどれだけ尊重し、活かしていけるか。逆に割増賃金の支払いを免れるという方向での悪用や、過度の目標値を設定することによって、当該労働者の健康被害をもたらすことがないかというような、使用者側の運用の仕方にかかっているものと思われます。
残業時間の上限規制
これまでは青天井となっていた残業代の上限について、罰則の設定というかたちで、初めて法的な拘束力のある上限が設けられました。
今回の残業の上限は、原則として「月45時間、年360時間」と明記され、繁忙期などに臨時に超える必要がある場合でも、45時間を超えて働かせられるのは、年に6か月までとし、年間上限は720時間以内とされています。
また、休日を含めた場合には、「月100時間未満」とし、2~6か月間の平均なら「月80時間」となります。
そして、上限を超えて働かせた企業には、6か月以下の懲役か30万円以下の罰金が科せられます。
大企業は2019年4月から、中小企業は2020年の4月から適用されます。
また、人手の確保が厳しい建設業やドライバーなどについては適用が5年間猶予されます。
新技術・新商品の開発などの研究開発業務については、適用が除外とされました。
このように、上限時間そのものについては、まだ高止まりしている感がありますが、とりあえず、罰則付きで上限制限がされるようになったという点では大きな進歩といってよいだろうと思います。
勤務間インターバル制度
勤務間インターバル制度は、仕事を終えてから、次に働き始めるまでに、あらかじめ決めた時間を空けさせて。働き手の休息を確保させる制度です。
2019年4月から、この制度の導入が企業の努力義務となります。
この制度は欧州が発祥で、欧州連合(EU)は、1993年、最低でも終業と始業の間に連続11時間の休息をとるように加盟国の企業に義務づけました。
日本政府としては、EUのように具体的な時間では示さずに、労使の協議によって決定するという方法をとっています。いずれにしても、この制度については、今後の運用次第という感じです。
同一労働同一賃金制度
パートや契約社員、派遣社員といった非正規社員は、今現在、雇用者の約4割を占めています。こうした人たちの待遇改善を図るため、正社員との不合理な待遇差の是正を企業に促すのが同一労働同一賃金制度です。
大企業では2020年4月から、中小企業では2021年4月から適用されます。
正社員と非正社員は今でも、仕事の内容や責任の程度、転勤・異動の範囲などが同じならば待遇も同じにする必要があります。
今回の法改正では、待遇ごとの性質や目的などに照らして不合理かどうか判断すべきだと明確にされました。
具体的にどのような待遇差が違法かについては「ガイドライン」で定められることになっています。
通勤手当などの手当てや社員食堂の利用などの福利厚生などの面では待遇差が認められないことになりそうです。
いずれにしても、この制度についてもこれからというところです。
有給休暇消化義務
年10日以上の年休が与えられている働き手に対して、最低5日は消化させることを義務づけたのが、この有給休暇消化義務制度です。
働き手が5日未満しか消化していない場合には、日程を指定して消化させることが義務づけられ、達成できなければ、働き手1人あたり最大30万円の罰金が企業に課せられます。
2019年4月から企業に義務付けられます。
この制度はそれなりに効果を上げっれそうです。
フレックスタイム制の修正
働き手が始業と終業の時刻を自由に決められる「フレックスタイム制」では、残業などを計算する際の基準となる「清算期間」が最長1か月から3か月に延長されることになりました。
清算期間を長くすると、働き手が仕事をする時間を選ぶ自由度が高まる一方、企業が特定の時期に集中的に働かせても残業代を支払わずにする余地が広がります。
この制度修正は一歩前進というところでしょうか。
中小企業の残業代
週40時間を超える仕事に支払われる残業代は通常の賃金の25%増しですが、月60時間を超える部分については50%増しとすることが労働基準法で決められています。
中小企業に対してはこれまでこの制度の適用が猶予されていましたが、2023年4月からはこの猶予が撤回され、ほかの企業と同様に50%増しとされます。
今回の改正では、中小企業で長時間労働を強いられてきた働き手にとっては大いにメリットがあり、一歩前進というところです。
以上が今回の国会で成立となった「働き方改革関連法」のあらましです。
かなり重要な内容が含まれており、今後の実務の動向が注目されるところです。